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『魔女誕生』:注釈

はじめに

(1)規模・時代の他にも違いはある。例えば、イギリスでは、尋問の際、拷問が認められておらず、また刑の執行も絞首刑が一般的であった。イギリスの魔女狩りについては、浜林正夫『魔女の社会史』(未来社、1978年)を参照のこと。各国の魔女狩りの概説については、クルト・バッシュビッツ『魔女と魔女裁判』(川端豊彦・坂井洲二訳、法政大学出版局、1970年)、浜林正夫・井上正美『魔女狩り』(教育社、1983年)を参照のこと。

(2)例えば、人類学・社会学的な見方では、当時の社会状況に注目し、妖術を単なる迷信として片付けず、それが行なわれた社会においてなんらかの機能を果たしていたとして魔女をとらえる。心理学的な見方では、魔女とされた人を心身異常の者として説明する。このような説明は16・17世紀にすでにみられるが、現在では、魔女だけでなく、告発者の精神状態にも注目する。哲学的な見方では、魔女狩りは現在から見るので不合理となるのであり、当時においては合理的であったのだという見方から魔女狩りを説明する。魔女の自白である“空をとんだ”などの奇妙な体験について説明しようという試みもある。空を飛ぶ際に魔女が体に塗ったという軟膏などの効果を、薬理学・毒物学を用いて説明しようというものである。女性史的な見方は、告発された人(すなわち魔女のことであるが)の八割が女性であることに対する説明を試みる。例えば、男性支配者層に嫌われた女性の呪術医が魔女であったという見方などである。Geoffrey Scarre, Witch- craft and Magic in 16th and 17th century Europe, London, 1987, pp.9-12.

(3)ジャン−ミシェル・サルマン『魔女狩り』、池上俊一監修、創元社、1991年、40ページ。

(4)森島恒雄『魔女狩り』、岩波新書、1970年、12ページ。

第一章 教会の民衆教化にみられる魔女的要素と性

(1)ノーマン・コーン『魔女狩りの社会史−ヨーロッパの内なる悪霊−』、山本通訳、岩波書店、1983年、133ページ。

(2)同、200−201ページ。森島前掲書、13ページ。

(3)阿部謹也『刑吏の社会史』、中公新書、1978年、47ページ。

(4)池上俊一『動物裁判』講談社、1990年、153ページ。

(5)コーン前掲書、210−212ページ。

(6)同、212−214ページ。

(7)同、214−216ページ。

(8)阿部謹也『西洋中世の罪と罰』、弘文堂、1989年、161−207ページ。J.T.McNeill and H.M.Gamer, Medieval Handbooks of Penance, NEW YORK,1990, pp.321-345.

(9)180、181、185章

(10)23、24、110、111、133、134章

(11)64、69、96、153、175、176、177、186、193、194章

(12)60、68章

(13)阿部、『西洋中世』、182−184ページより引用。McNeill and Gamer, op.cit., p.331.

(14)阿部同、185−187ページ。McNeill and Gamer, ibid., pp.332-333.

(15)阿部同、200ページ。McNeill and Gamer, ibid., p.339.

(16)コーン前掲書、280−286ページ。

(17)例えば、以下のようなものがある。

(642)ランゴバルト族の法律「何人にも、外国から来た召使の女や女奴隷をストリガとして殺させてはならない。女が生きている男を内側から喰いつくしてしまうなどということは、ありえないことだし、キリスト教の考え方では決して信じられてはならないことだからである。」Edictus Rothari, 376(in Leges Langobardorum, ed.F.Beyerle,Witzenhausen, 1962.p.91).
(789)シャルルマーニュの法令集「悪魔にだまされて、異教徒たちの間で習慣となっているように、男か女の誰かをストリガであって人間を食べるのだ、と信じたりあるいは、その理由でその人物を焼き殺したり、その男か女の肉を食ったり、他の人にその肉を与えて食わせるような人がいるならばそれが誰であれ処刑されるべきである。」Capitulatio de partibus Saxoniae, para.6, in MGH Leges, sectio2 ,vol1. ,pp.68-69.

※ストリガ……ストリックスと同義。

(以上ふたつは、コーン前掲書、287−288ページより引用。)

(18)コーン前掲書、288−289ページ。

(19)Text in Regino of Prum, Libri de synodalibus causis et disciplinis ecclesiasticis, ed.F.G.A.Wasserschleben,Leipzig,1840,p.354. (コーン前 掲書、291−292ページより引用)

(20)コーン前掲書、291ページ。また、このころ、迷信的な事柄に対して教会 が懐疑的であったことが、ボヴェーのヴィンケンティウス Vincent de Beauvais(1190頃〜1264)の話から明らかとなる。それによると、真夜中に、鍵のかかった家に入りこんだという老女に対して、実際にそれが可能なのかどうかを試させ、結局そのようなことは偽りであるとして非難している。Vincent de Beauvais, Speculum quadruplex sive speculum maius, Douai,1624, Speculum morale ,27.(Claude Lecouteux/Philippe Marq, Les Esprits et Les Morts, Croyances M di vales, Paris, 1990, p.39.)

(21)阿部、『西洋中世』、167ページ。

第二章 迫害を受けた人々、いわゆる異端の魔女的要素と性

(1)コーン前掲書、1-6ページ 。カルロ・ギンズブルグ『闇の歴史−サバトの解読』、竹山博英訳、せりか書房、1992年、122ページ。

(2)コーン同、6-20ページ 。ギンズブルグ同、122ページ。

(3)コーン同、23-24ページ 。ギンズブルグ同、123-124ページ。

(4)コーン同、26-27ページ 。ギンズブルグ同、123-124ページ。

(5)コーン同、32−40ページ。

(6)同、43−50ページ。

(7)同、49−50ページ。

(8)同、100−131ページ。

(9)ギンズブルグ前掲書、59−91ページ。池上俊一『狼男伝説』、朝日新聞社、1992年、208−235ページ。

(10)ギンズブルグ同、113−114ページ。

(11)同、114−115ページ。

(12)『ジャンヌ・ダルク処刑裁判』高山一彦編・訳、白水社、1984年。

(13)同、188−189ページ。

(14)同、187−244ページ。例えば、第五・六条では、泉・樹木について言及されている。このことは異教的な泉・樹木崇拝の罪をジャンヌにきせようという意図が見える。第七条では、マンドラゴールの根が出てくる。マンドラゴールとは、ナス科の植物で、その根が人間の肢体の形に似ることと強い香りを持つために、様々な迷信の対象となり、愛の秘薬とも言われた植物である。また、第三十三条では、未来を予言できるともされている。

(15)同、340−342ページ。

(16)コーン前掲書、312−321ページ。

(17)Scarre, op, cit., p.25.記録によると、大体ヨーロッパにおいては、被告の約80パーセントは女性であった。もっとも、告発された者のうち、女性の男性に対する割合は、場所によって異なり、また、一つの場所でも期間により異なっていることが多かった。

第三章 『魔女の槌』Malleus Maleficarum による、魔女=女性イメージの確立

(1)巻末資料を参照のこと。

(2)サルマン前掲書、33ページ。

(3)バッシュビッツ前掲書、98ページ。

(4)1232年2月8日、グレゴリウス9世は『イルレ・フマーニ・ゲネーリス』Ille humani generis と題する大勅書を発布し、托鉢修道会に異端に対する懲罰の権限を与えたが、修道士たちは教皇の権威のみに服し、各地方の権力からは影響を受けないことになった。しかし、地方の司教たちから不満が起こってきた。つまり、異端審問官がやってくることにより、自分たちの権力が制限されると見て取ったからである。例えば、1234年、サンスの大司教は異端審問官を指名することを拒否し、自己の教区内では自分がすべてに責任をとるのが正当であると主張した。また、いくつかの地方公会議においては、司教たちが異端審問所に対し、不信の念を表明した。異端審問官の中には恐ろしく厳しい者や、あるいは告げ口をすべて信じ込んでしまうような者もいたからである。G・テスタス、J・テスタス『異端審問』、安斎和夫訳、白水社、1973年、17-21ページを参照のこと

(5)J.B.Russel, Witchcraft in the Middle Ages, Ithaca, 1972, p.230.

(6)サルマン前掲書、36ページ。但し、バッシュビッツ前掲書、100ページで は、ケルンで印刷されたとなっている。また、ヒルデ・シュメルツァー『魔女現象』、進藤美智訳、白水社、1993年、95ページでは、1489年にケルンではじめて印刷されたとなっている。

(7)incubus<incubi 夢魔のこと。睡眠中の女を犯すといわれる男の悪霊。睡眠中の男と交わるといわれる女の悪霊は、サキュバス succubus<succubiという

(8)Russel, op.cit., pp.231-233.

(9)Henry Institoris/Jacques Sprenger,Le Marteau des Sorcieres(Malleus Maleficarum),traduction francaise par A.Danet,Grenobl,1990,pp.597-598.

(10)バッシュビッツ前掲書、101ページ。

(11)池上俊一『魔女と聖女』、講談社、1992年、100-115ページ。

(12)シュメルツァー前掲書、103ページ。

(13)同、101ページ。

(14)Institoris/Sprenger, op.,cit, pp.175-176.

(15)Ibid., p177.

(16)Ibid., p182.

(17)Ibid., p182.

(18)シュメルツァー前掲書、23ページ。

(19)コーン前掲書、208-209ページ。

(20)1430年代から、妖術についての論文が増加し、神学者などの理論家たちにより、その真偽が議論されるようになる。Russel, op.,cit, pp.233-243.を参照のこと。

(21)Institoris/Sprenger, op.cit., p.230.

(22)Ibid., p232.

(23)Ibid., p231.他の peche として、次のようなものが挙げられている。

ルシファーの peche(原因となる影響力に関して)、アダムの peche(一般的な影響力に関して)、ユダの peche(醜悪さに関して)、聖霊に対する peche(許しがたさに関して)、無知の peche(危険性に関して)、強欲の peche(他者に対する冷淡さに関して)、肉欲の peche (悪への指向性)、偶像崇拝や不誠実の peche(神の威厳に対する侮辱に関して)、傲慢(消しがたさに関して)、怒り(心を失った状態に関して)。

(24)Ibid., p245.

(25)Ibid., p232.

(26)Ibid., p235.

(27)バッシュビッツ前掲書、96-97ページ。

(28)カルロ・ギンズブルグ『ベナンダンティ──16-17世紀における悪魔崇拝と農耕儀礼』、竹山博英訳、せりか書房、1986年。

(29)同様の例が、Russel, op. cit.,pp.211-213にある。

(30)バッシュビッツ前掲書、57-58ページ。シュメルツァー前掲書、進藤美智 訳、白水社、1993年、126-139ページ。上山安敏『魔女とキリスト教』、人文書 院、1993年、206-223ページ。

(31)サルマン前掲書、98ページ。

(32)Institoris/Sprenger, op.cit., p.216.

(33)Ibid., p.348.

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