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『魔女誕生』:おわりに

これまでの流れを見ると、もともと“魔女”という概念は存在しなかったことがわかる。確かに、女性が男性より特別視される存在ではあったけれども、とりわけ“悪を行なう者”という見方はされていなかった。また、実際に迫害を受けた人々のなかに、性別差は存在しなかった。ところが『魔女の槌』において、妖術を行なう者として、とりわけ女性が取り上げられ、女性が妖術と関係が深いことが伝統的なキリスト教的女性蔑視観にもとづき しかし、当時の正統な学問的根拠となりえたものである 論証されたため、妖術師=女性というイメージが確立・強化された。さらに妖術が背教を伴う現実的なものであるという考えも同時に論証され、それにより、妖術が異端と定義されたことから、妖術と結び付けられた女性は、実際に厳しい迫害を受けることとなる。ここにおいて初めて、“魔女”が誕生したといえるだろう。

そして『魔女の槌』における、その突出した女性蔑視・嫌悪と妖術の強調は、やがて後世の学者・知識人に取り上げられ、新たにサバトという集団の概念を伴い、日常生活のあらゆることから大規模な迫害を生み出すことに貢献したと考えられる。

以上、『魔女の槌』における魔女=女性イメージの確立を考察してきたわけであるが、説明不足と思われる部分もある。とりわけ、第三章第4節における、民衆文化に対するエリートの反感・誤解については、今一歩具体的に説明しきれなかった感がある。主題が魔女=女性イメージの確立であったため、産婆のみの例となったが、民衆文化に対するエリートの反感・誤解という観点を拡げるなら、その他の民衆文化を取り上げ考察することも、可能かつ有意義であると思われる。

また、全体的な流れから見るならば、この『魔女の槌』において確立された魔女=女性イメージがその後、どのようにして人々の間にひろまり、1580年代の魔女狩りの再燃へと至るのか、ということが今後の研究課題として挙げられるであろう。

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